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    「いや、高間さんは大漁ですがね。わたしの方はさつぱり駄目ですよ」

    「ほう、さうか。毎年あるのかね。そいぢや、これから度々見られるわけだな」

    「うん」

    「三人どころぢやない、五人も十人もある」

    房一は苦が笑ひをした。

    ところが驚いたことにはこの男は、房一があらゆる初対面でやる鹿爪らしい挨拶の文句を今やはじめようとしたときに、いきなり前に立ちはだかるやうに、と云ふより、殆ど気づまりのするほど真正面に近々と顔をよせて、おまけに露骨に房一の顔を見入りながら、

    男はその時、案外なほど寂しみのある表情を浮かべ、頬杖をついてぼんやり戸口の方に顔を向けていたが、眼だけをちよつと動かせた。だが、知らぬふりでビールを口へ持つて行つた。

    が、登り切つた所で、ふりかへつて盛子を待つた。そして、何となく様子のちがつたゆつくりさで登つて来る盛子の、上うは目になつた、意味ありげに笑つている顔を見た。

    「今日からお隣へ参りましたから、よろしく願います。」

    「いや、どうも。恐縮です」

    が、ひどく不機嫌になつた時にはこの円味が消えてしまひ、あのどぎつい部分々々がばらばらに突出し一層強くなるやうに感じられる瞬間がある。それは理由なく盛子を恐怖させるものであつた。

    それは初めて口に出す言葉だつた。

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